10.1公開【岸辺の旅】〜10秒で読める映画レビュー〜

  


10.1公開【岸辺の旅】

黒沢清監督の撮る初のラブストーリー。今年、カンヌ国際映画祭のある視点部門で、日本人初の監督賞を黒沢監督が受賞する快挙を得た本作。

突然失踪した夫が、ある日突然帰ってきて、自分は死んだと妻に告げる。

死んだ夫が生前、渡り歩いた旅路を、夫婦で再び旅をするある種のロードムービー。

はたから見れば夫は、実体もあるし、誰にでも見えるし、生きている人間との境目がない夫。でも、刻一刻とサヨナラが迫ってくるのを感じる妻。
妻のこのままでいいからもう二度と離れて欲しくないという想いだけが静かに伝わり、胸が痛くなる。
冒頭にある一言のセリフ。

夫の死を理解し、死んだ夫と久しぶりに話しをする妻。
会話がうろ覚えでごめんなさい。

「(自死を選んだ夫が)水だったから苦しくなかったよ」

「そう、ならよかったわ」

と心からホッとした様子で応える妻。
なんで私を置いて死んだの?ではなく、夫が死ぬ時に、苦しまなくてよかったと真っ先に伝えた妻。悲しい会話なのだけれども、ふたりのどんな時も思いやりを持って接しあってきた優しい関係が見てとれて思わず心がぎゅっとなった。
さりげない会話から、この二人の信頼関係が確かにそこにあったこと。

それが、よく伝わる映画でした。

深津さんと浅野さんの会話がすべてアドリブかのように自然で2人の確かなる演技力、そしてこの世界観を不思議なものに感じさせない黒澤さんの確かなる演出力もかんじます。
あぁ、でも最後に、やっぱり切ない。今隣にいる人を精一杯愛そうと力強く思える1作です。

 

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